時を渡る訪問者07






今日のリズヴァーン一家は朝から賑やかな空気に包まれ
ていた。

1人息子の誕生日だからだ。

朝早くから豪勢な食事が準備され、主役のリズヴァーン
以外は細々と動き回っている。
もちろん、リズヴァーンも手伝うと主張したが、説得に
負けて部屋で本を読んで待っている。


もちろんも例外ではなく、ディアナの横にく
っ付いて、手伝いをしていた。

こんなに安心して手伝いが出来るのも、香り袋が完成
しているからだ。
其の事を考えれば、自然と顔も笑顔になる。

匂い袋に入れるお香を用意するのは以外に難しかったけ
れど、ギリギリまで作り直して、やっと納得できる物が
仕上がった。


このプレゼントの成功したのは、ディアナが丁寧にお香
の合わせ方を教えてくれたからだ。
教えて貰えなかったら、こんなに早く出来ていなかった
だろう。


丁寧に畳んだ小物要れと香り袋は、準備万端。
後は渡すだけになっていた。



「ふふ、ったらまた笑ってるわよ」

「えっえぇ!……ついつい顔が緩んじゃうみたいです」


「本当に……みたいな子と出会えてリズは幸
せ物ね」


からかう様にこずかれ、赤くなれば余計にからかわれる。




ここ最近の日課になって来たこの光景。
クロノは苦笑して2人を眺め、リズヴァーンが止めるのだが……。
しかし今日はリズヴァーンは部屋で待機中だ、止める人が居ない
のだ。

ディアナはわくわくと話を続ける。


「本当、がずぅ〜っと家に居れば良いのに」


大根を切っていた手を止めると、ギュッと
抱きついた。


「ええっ!ずっと居たら流石に迷惑じゃ」

「いいの、私が許すわ!!」


ケラケラと笑い、パシパシとの背中を叩いた所で、
やっと出たクロノの静止の言葉がディアナを作業に戻らせた。


それを確認して、やっとも作業を進めにかかった。







++++++




「……ふぅ」


夕焼けに空が染まる頃になって誕生日を祝う準備が全て
整った。


リズヴァーンを呼びに、は急ぎ足で廊下を進
んで行く。


部屋の前にたどり着くと、夕焼け色に染まった障子に向
かって声を掛ける。


「リズ」




……」


落ち着いた、綺麗な声が障子越しに聞こえ、スッと音も
無く障子が開かれる。



「準備できたよ」


ニンマリといたずらっ子の様に笑うに、リズ
ヴァーンもつられて笑みを返すと、二人一緒に居間の方
へと向かっていく。

と、途中でが足を止めた。


「あのさ、プレゼント用意したの。手作りだけど……」


着物の袂から包みを取り出すと、そっと手渡す。
廊下から見える空は赤く輝き、2人も少し赤く染まっ
て見えた。


「ありがとう


満面の笑みを浮かべ首を傾げた姿は、とても愛らしく、
の目に年相応の少年らしく映る。


「良かった……リズっ!?」


喜んだ顔に安堵を浮かべたのも束の間、はリ
ズヴァーンに抱きつかれていた。

「本当に……嬉しい」


でも其れは一瞬で、そっと離れたリズヴァーンは、何も
無かった様に、笑みを浮かべて前を歩き出した。


「……まっまって!!」


放心状態だったも、我に返り、慌てて後ろを
追いかけ走り出す。

「大丈夫、置いてなんて行かない」


自然な動作で手わ差し伸べられ、も自然に手
を握り返す。

「行こっ!」

何だか嬉しくなって、いつもよりハイテンションに声が
出た事に自分でも驚きだ。

リズヴァーンの誕生日なのに、の方が喜ぶな
んて少し変かもしれないけれど。

今日はにとっては本当に嬉しい日なのは確か
だったから、其れで良いのだ。

自分で自己完結すると、リズヴァーンに笑いかけた。





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