時を渡る訪問者06.






は早足で家に帰ると、わき目も振らずに自室
へと駆け込んでいった。

まずは襖をピッタリと閉め、黒光りした光沢のある小
さな箪笥へと駆け寄っていく。

座って開けても目の高さにある一番上の引き出しを引
っ張り、黒地に薄く桜の花弁の舞った、ちりめんの風呂
敷を引っ張り出す。



其れを大きくはためかせ、風を含ませてゆっくりと畳の
上へと広げた。

一畳以上の大きさのあるその包みは、が此処
に来たときから持っていた物の一つだった。
此れならお金を掛ける事も無く、中々の物が出来る。
は考えていた。


まず1つは、この布を使って香り袋。

2つめは、 小物を入れられる物。

香り袋の中身は、リズヴァーンが良く炊いているお香の
作り方を、何気なく聞いて用意するしかないけれど、こ
の二つなら何とか間に合いそうだ。



それに、香り袋ならおそろいの物を持って居るのも良い
かもしれない。
香り袋の中身だけ替えれば可笑しくないだろう。



1人考えに耽って居ると。





?居るの」


リズヴァーンが襖の前まで来ていたことにも気が付かな
かった様だ。


は1つ飛び上がると、慌てて返事をした。
慌てて風呂敷を丸め、箪笥の中へと仕舞い込むと近
くに在った本ほ引っつかんだ。



「居るよ、リズ。どうしたの?」





普段どうりに返事をすれば、ほっとした様に1つ吐いた。



、いったい何処へ出かけてたの?」



「ん? ちょっと外ぷらぷらしてただけだよ。 少し
早くに目が覚めたから」


「そうなら良いんだけど、また迷子かと思って」


その声音は心配そうで、はハッとして襖に走
り寄り、ゆっくりと襖を開く。
何か在ったのだろうか?
そんな疑問が胸を過ぎり、は内心気が気では
ない。

まだ雪積もるこの季節。

ゲームのシナリオに入っていく事は無いはずだ。



「ごめんなさい。 今度はちゃんと言ってから行くね」

・・・こっちこそ慌てすぎたみたいだ、さっ
ご飯にしよう」



ニッコリと笑うと手を差し出すリズヴァーンに、
は手を握り締めると、笑い返す。


此処でも心配そうにしていては、リズヴァー
ンに余計心配を掛けてしまう。

それに、リズヴァーンの顔を見ると自然に顔が綻ぶのだ。

自然に笑顔になる。

「そうだね、ご飯にしよっか」


のそんな様子を見て、リズヴァーンは安心し
たのかひとつ肩の力を抜き、ふんわりとした柔らかい笑
みを浮かべる。


「急ごう。もうとっくに朝ご飯の時間だ」


廊下に出ると、ふんわりと匂って来るご飯達の美味し
そうな様子にぐぅっとおなかの虫が鳴き、2人で苦笑す
ると、少し急いで食卓へと向って行く。

誕生日まで後少し。


その日を思うとはワクワクするのだった。





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