時を渡る訪問者02.







ギリギリと木屑が手に刺さって絶対酷い事になってい
る気がしてならない。


「後少し待ってて」



下にいる少年の応援を聞きながら、両手に力を入れて
耐える。



耐える。





耐える。








「っ!!!!」


もう駄目だ。はギュと目を瞑り、
次に来る衝撃に備えた。




「・・・・・・?」


一瞬の衝撃。

でも、いくら経っても痛みはやって来ない。




「間に合ったっ・・・」



耳元で声が聞こえ、恐る恐る両目を開いていく。
目の前には、フワフワの金の髪に、深い深い青の瞳。


「なっ・・・・!?」


「良かった。怪我は?」





は、慌てて回りを見渡す。


良く見れば、と少年の下にはフカ
フカと、柔らかなクッションの様な物が挟まっていた。


「ん。痛い所は無いよ」


強いて言えば痛いのは手だが、心配そうな少年には言
い出しにくい。



「そっか、でもおねえさんは如何して木の上なんかに
居たの?」



「うっ」



流石に、君たちが来たので隠れてました何て言えない
は、一瞬言葉に詰ってしまう。
助けを求めた時点で覚悟していたが、出来るなら立ち
聞きしてたなんて、そんな事知られたくない。


はっきり言えばはずかしいのだ。




「あー。んー。熊っ!そう熊がね、来たのかなーって
慌てて上ったら降りれなくなっちゃって・・・」



「そっか」



素直な反応に心苦しい。


「でも、何でこんな所に居たの?・・・ここって普通
の人は来ないんだ」



そうだった。

は今の騒ぎで忘れかけていたが、
ここは、あの遙かなる時空の中での世界かもしれない
のだ!



「なんでかな?気づいたら此処に居たから・・・」



これは本当の事だ。

気がつけば森に居たのだ。



「ぼくじゃあんまり分からないから、村の大人
の人に聞いた方がいいかも・・・」



本当に良く見れば見るほどこの少年があの鬼の一族の
先生に見えてくる。
たしか、神子に助けられた少年の時の先生は、この子
が少し大きくなったぐらいだった気がする。


の考えが合っていれば、ここの森
の近くに鬼の集落が有るのだろう。



「・・・ね・・ねえ、おねえさん!」



「ごっごめんなさい!!!」



「うわっ!」


思わず出した大声に少年はビックリしたらしく、大き
な目をくりくりにしてを見た。


「ごめん!」

「いいよ。色々大変だったんでしょ?」


何て優しいんだろう。

思わずホロリとしてしまうだった。



「本当、ごめんね」


「いいよ。さっき言ったのは、案内するから着いて来
てって言ったんだ」



何て可愛いんだろうか。
先に立つと、ニッコリ笑って手を差し出してくれる少
年に、もニッコリと笑い返す。



「ありがとう」



と、手を出して思い出した。

自分の手は今は木屑だらけなのだ!



「ごめんっ」

慌てて手を引っ込めるけれど、聡い少年は直ぐに気が
ついたらしく、の手を取って顔を
顰めた。



「今は薬が無いんだ、帰ったら薬をつけなくちゃ。」


黙っていた事を怒るわけでもなく、静かに喋る少年は
よりよっぽど大人だ。



「急ごう」



そう言うと、少年はの腕をひいて
前を歩き出す。


は後ろ姿にそっと呟いた。


「ありがとう」





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