時を渡る訪問者16.2














襖の向こうから、なだれ込む様に望美達が駆け込んできた。

「みなさん、無事だったのね……よかった」

朔がほっとしたのか、少しだけ緩んだ表情で胸元を押さえる。
も少なからず、ほっとした。
さっきまでのこの屋敷は静か過ぎて……。
不安があおられる様だった。

「景時と弁慶は?」

こんな時でも凛とした声で、九朗が朔を見た。

「わかりません、今朝家を出たきり」

朔はまた不安そうに眉を顰めてしまう。

そんな時だった。

「―――― ん?」

何かが屋根に降り注ぐ音。

ヒノエが何かを察知したように顔を険しくさせた。
辺りを注意深く伺っている。

「おいおい、冗談だろ? のんびりしてる場合じゃなくなったぜ」

いっそう険しくなる視線。
譲が驚愕の表情でヒノエを見据える。

「あいつら、この屋敷にも火をかけたのか?」

全員の顔が一瞬にして引き締まる。
は1人、顔を真っ青にして、握り締められた朔の手を離せずに
居た。

「でるぞ! このままでは焼け落ちるだけだ」

九朗の掛け声でいっせいに駆け出す。

あちこちから火の手が上がっている。
火がつくとあっという間に辺りの調度品を燃やし、広がっていく。

怖い。

凄く怖い!

はパニックになりそうな心を必死で押さえつけ、朔にすがる様に
着いて行く。

このまま……望美が現代に戻った後、此処はどうなったのだろう。
みんなはどうなるんだろう。

は怖くて仕方なかった。
不安なんて、体全身を覆っている。


ただ、足を必死に動かす。




「神子!」

白龍の叫びが耳に飛び込んできた。
物凄い音が地響きとともに響く。
天井の梁や壁が崩れ、完全に望美と白龍2人、私達とを隔てて
しまった。

全員が、もちろんも、あわてて後ろを振り返る。


「あぁっ」

朔が悲痛な声を上げる。

でも、1人は知っている。
望美は逆鱗の力で時空を越える、そして運命を変えるのだ。
だから……望美は絶対に無事だって。



向こうから、声が聞こえてきた。

白龍と望美の声だ。


「逆鱗!そんなの駄目だよそんなの! 白龍そんなの絶対だめだからね」


朔が震えてる。

手から伝わってくる。


直後、眩いばかりの光の渦があたりを包み込んだ。


白龍の光。

「いやぁーーーー!」

誰の声かなんてわからなかった。


この結果を知っていたのに……。
止められなかった。
止めなかった……。


でも、そのの後悔さえ飲み込むように、運命は動き出す。


も、光の粒子の様な物につつまれ始めていた。
その粒は徐々に広がって、流れ、厚みを増し、濃く輝く。

!?」

驚いたような、慌てたような声が掛けられる。

朔だ。

望美の光が収まり始め、見えたに起こった異変に、目が
見開かれる。


「……っ、!?」

「朔、朔……朔!」

朔が居なかったら、此処でこんなに耐えられなかった。
ありったけの感謝の気持ちで朔の名を叫んだ。

「朔、ありがとう朔」

「……っ

リズヴァーンと分かれたときの様に、段々光が強くなり、前が
見えなくなってくる。

「みんなごめん……ありがとう……」

八葉達の姿も、朔の姿も、かすんで来る。

あんなにを疑っていたはずの九朗まで、心配そうな驚いた
表情でを見ている。

このまま何処の時空に跳ばされるのかは分からない。

だけど……決心した。

望美がとか、だれがこうだからなんて考えない。
私は最善の結果になるように、わたしなりに動いてみせるって。
抜け殻には……ならない。

あの流れの中では意思が大事なんだ。
そう思えた。

リズヴァーンのもとへと……。

は祈る様に目を閉じた。






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