空が炎で赤く染まっていく。
変らなかった。
私の一言では、変える事等できなかったのだ。








時を渡る訪問者16














望美達が出かけて、もう幾つの日が過ぎたのか、ただ起きてご飯を
食べてまた寝る。

望美と話した後も、ほぼ自分の殻に篭っていた。
でも、朔がやって来て取り留めの無い話を聞かせてくれる。
暇を見つけては来てくれているのだろう。
その時だけは少しだけ心が軽くなった。
白龍は望美と出立してしまった。
弁慶さんは忙しいのか、最近はあまり顔を出さなくなった。

漠然と、何かしないといけないと言う不安はあるのに、やる気は
起こらず。
はこの日常のサイクルに甘えていた。

ただ何も考えずにぼーっとしている時、偶に頭を掠めていく。
リズヴァーンと分かたれたときの表情が、きゅっと心を締め付
ける。

逢いたかった。

ただ、逢いたかった。


つーっと涙が自然に零れる。
そのままにしておくと、風にさらわれて、後だけ残して水分は
飛んでいった。

こんな姿をリズヴァーンが見たら幻滅するだろうか。
あのまっすぐな少年は……。

優しい少年は……。

あのまっすぐな八葉である青年は……。

こんな私を……。


でもわからないのだ。
どうすればいいのか。




+++++





また幾日か過ぎた。
日々は変らない。

でも……今日はまったく違った。
運命の日がやってきたのだ。

時は巡りだす。


!」

慌てたように朔が部屋に飛び込んでくる。
の部屋からも、空の向こうが赤々と染まっているのが見えた。
今日もいつもの様に外を眺め、ぼーっと過ごしていた。
其処に突然煙が立ち昇り。
あっという間に赤に変っていったのだ。

「……どうしよう」

意味も無く、ポロリと言葉が零れ出る。

、今兄上や弁慶さん、みんなが動いてくれてるわ」

きっと大丈夫。
そう言って、朔はの手を握り締めた。

もたまらず朔の手を握り返した。
外から、異様な空気が室内へと流れ込んでくる。
外の音は聞こえない。

でも、確かに、平家がここに攻めて来ているのだ。
は体の隅からえも言えぬ感覚が心を支配していくのを感じだ。

手は、微かに震えている。
一瞬にして蘇ってくる記憶、リズヴァーンと逃げ惑った日の記憶。
あの時感じた恐怖、不安感。
リズヴァーンのために必死になる必要も無い今、不安感だけが
制御不能に心の中をぐるぐる混ぜていく。


「取り合えず、私は少し外の様子を見てくるわ」

「待って、私も行く」

ここで1人にはなりたくなかった。
朔を1人で行かせるのも怖かった。

朔が驚いたような表情で、を見つめてくる。

「でも、危険だわ」

「わかってる、でも見に行くだけなんでしょ?」

「えぇ」

「なら、私も一緒に……」

必死になって朔の目を見つめる。
朔の目が微かに揺れるのが見えた。
目が暫く合う。と、ゆっくりと目を閉じて、ゆっくりと開いていく。

「……わかったわ、一緒に行きましょう」

朔が目線と同じように、ゆっくりした声で頷いた。

そっと、視線がから外の景色へとうつされる。
も自然とその視線の先を見た。
煙が立ち昇って、赤く染まる空。
近づいてきている気がする。

「急ぎましょう」

黙って頷いた。
手を握られ、外の様子を見るために門へと歩みを進める。

急いでいるのに、いつもも長い廊下、部屋、門への道のりがよけいに
遠く感じる。

パタパタと2人の足音だけが響く。

あと少しで門にたどり着く。
こんな時にはこの広いお屋敷を憎く思ってしまう。

早く。


気ばかり急いでいた。
その瞬間。

「朔! ! 誰か居ないの!?」

大声を張上げる望美の声が聞こえてきた。






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