心が痛い、そんな言葉の重みなんて知りたくなかった。








時を渡る訪問者15














梶原邸に着いた一行だったが、そうゆっくりもしていられない様だ。
ざわついている。

九朗が、福原の責任を取って、総大将の役目を降ろされる事になったらしい。
文が届いた時の九朗の動揺は、余裕の無いにもひしひしと伝わってきた。

かわりに九朗の役目をあずかるのが、景時ということも、この空気を作り出す
原因になっているに違いない。

いまだ、うまく溶け込めないには、端に座ってだまって聞いてる事しか
出来ない。

「まず文を送ってみましょう」

その場はそれで一応の決着がついた。


+++


は1人、あてがわれた室内で呆然と外を眺めていた。


ここは一週目、リズヴァーンはもう居ない。

役目も無いは暇だった。

だから、無駄に考える時間だけはある。


この後どうすれば良いのか、は混乱する頭で必死に考えた。
この状況まで来ていると、いくらの知識があっても、あの
悲劇は避けれないだろう。
それとも……わずかな望みを持ち、言ってみようか……。

でも……何をしたら正しくて、何をしないのが卑怯なのか。

わからない。



ただ、ここで運命を変えて良い方向に進み、神子……望が逆鱗を手に入れなかったら。
むしろ、もっと悪い方向に進んで、手に入れられなかったら。

リズヴァーンはとはもう合えないのかな?
それとも……幾すじとも言えぬ運命の何処かでは、私とリズヴァーンは
であえているのかな?


でも……ワタシは会えない。


どちらに転んでも、が時空を超えないのなら、会える望み
なんて皆無だ。

イヤダ……そんな運命なんて望めない。

なら……どうなっても良い、自暴自棄になってくる。

は頭を抱えて丸まった。
縁側のひんやりした木目が頬から熱を奪っていく。


時空跳躍、なんの因果か、なんでこの時空に来たのだろう。

「わからないよ……」



+++++

幾日が過ぎたのか。

何度かの話し合い。

数度参加したが、昨日が1人で落ち込んで、部屋に篭っている間、
九朗は頼朝のもとへと行く事に決まり、望も一緒に行く事になったみたいだ。

文の返事が無いなら、直接会いに。
そう敦盛さんや弁慶さんが言った事で、あっという間に
出立の準備が始められているようだった。

報告を受け、はただ頷いた。

ただ、駄目でもともと、には此処で言う事があった。
平家の京への奇襲……。
もしかしたら、避けられるかもしれないのだ。
言った方が、良い。

そう決心した。

「一つ、言いたい事があります」

視線が集まる。


「近く、この京は……平家の奇襲に合うおそれがあります」


今まで、落ち込んで、部屋に閉じこもっていたの突然の発言に、
一同は様々な反応を見せた。


「なぜ知っているのですか?」


もっともな質問だ。
これに対する答えは用意してある。


「私は見たからです」


「見た?」


「はい、リズヴァーンとはぐれた後、時空の波に飲まれたんです」


時空の波。
あの場所の事を、はそう思ってる。
だから、はそのまま口にした。


「時空の波、それは本当にあるよ」

以外にも、白龍の声がの言葉を後押ししてくれる。


「きっと、はこの世界に好かれてるんだね」

「好かれてる?」

「うん、だから、危険が迫ったをこの世界が助けた」

衝撃的な新事実に、は思わず呆けそうになる顔を引き締める。

望の隣に居たはずの白龍が、いつのまにかの隣に居て、
きゅっと手を取ってきた。

「だから私も、多分神子も……の空気にはとても引かれる」

ニコリ

可愛い笑みを見せてくれる。

望の方を見れば、硬いけれど、笑顔でを見ていた。


「だから、そんなに落ち込まないで」

もしかしたら、平常時に、初めてまともに交わした会話かもしれない。

「ありがとう」

少しだけ、元気が出た。


「それは……僕らがここに飛ばされた時に通った場所でしょうか?」

譲がいち早く反応を返してくる。
に、そして白龍に、尋ねているのだろう。


「多分……同じモノだとは思う」

「うん、だけど少しだけ違うよ」



白龍の言葉に、みんな時空の話は信じたみたいで、少しだけ場に
あったピリピリした空気が消えていく。
でも……。

「其処で見えたんです、様々な映像が見えました。 その一つに、
京の奇襲があった」

一呼吸おいて、口を開く。


「だから……気をつけたほうが良いのではと思ったんです」

「……しかし、その場を通ったという話は信じても、奇襲の話など…」



信じられない。


その場に居る源氏のもの達の顔は一様に、その表情でを見つめている。


「ただ、気をつけるに越した事はありません、心の隅にでも、気に掛けて頂けたらそれで」


十分です。



そう言って、座を後にした。


今の助言は、ただ自分が後悔したくなくて言っただけだ。
言わないで、京の惨劇が起こったとき、知っていた自分が
自分で自分を卑怯者に思わないための保険だ。

正義感だけじゃない自分の心。


そんな自分の考えに、はうな垂れた。


もし……これで京が無事なら、その後の運命は見たことの無い物
になる。

リズヴァーンが居ない。

欠けた八様。



自分は……。


は与えられた自室に篭ると、布団に潜り込んだ。



夢の中だけでも、リズヴァーンに会いたかった。





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