風が頬を撫でて過ぎ去っていく。
今、は京に戻ると言う一行に紛れていた。
風は冷たくなり始め、木々は紅葉して、赤や黄色にその葉を
染めている。
時を渡る訪問者14.2
弁慶に誘われた後、八葉の仲間と白龍、黒龍の神子が紹介され、
数刻後にはその場を出発した一行。
今は、紅葉し始めた木の下を進行中だった。
その間、リズヴァーンの事は八葉だったとの説明があり、
一方気をつかってか、何が有ったかの詳しい説明はは誰も口にしな
かった。
ただ、神子だけは何か言いたげにはを見つめていて、
でもそれを聞く勇気はに無く、黙々と歩みを進め続けていた。
今もは視線を感じている。
が、今は聞きたくなかった。
それに、神子に近づくのは今は止めたほうが良さそうだ。
まだ警戒しているらしい九朗の視線にもかなり参ったが、
この世界に来て暫く経ったとは言え、こんなに長時間歩く
事など初めての経験で、足の裏にマメが出来、ジクジクと
歩くたびに痛んだ。
変に人と歩調をあわせては、途中で歩けなくなる可能性もあり
そうだ。
今は歩く事に集中したほうが良いだろう。
しかし、こんな事を考える一方、には全てが意味無く感じ、
布団があったら其処で丸まって居たい。
何も悩まず、不安な事は何も考えたくない。
そんな気分だった。
支離滅裂な思考が、波のようにいったり来たり、本当に困惑する。
は大きく息を吐くと、手を握り締めた。
「大丈夫?」
柔らかな声が隣から振ってきた。
「えっと……朔さん……大丈夫です、まだ歩けます」
「……そうね……つらかったら言ってね」
「はい、ありがとう朔さん」
きっと足の事だけを言っているのでは無いのだろう、気遣わしげ
にを見る瞳は優しく揺れていた。
もそれはわかっていた、だから色んな意味を込めてお礼を言った。
でも、優しくされると、頼りすぎてしまいそうだった。
「あと、私の事は朔でいいわ」
朔が首を傾げ、駄目かしらと目で訴えてくる。
「はい、えっと私も呼び捨てで、って読んでください」
そんなの断れるわけが無い。
「もちろん、あと敬語も要らないわ」
「は、うん朔」
はいと言ってしまいそうになって慌てて言い換える。
でも……なんて、なんてこの世界の人は……。
優しいのだろう。
この世界での出会う人はみんな優しい。
は目が潤んできた。が、大きく息をして踏ん張った。
目の前で泣いたら余計に心配させてしまうかも知れない。
「あら、いつの間にか随分後ろに来てしまったみたいね」
自然な動作で手を取られる。
そのまま朔に手を引かれ、は前へと歩き出した。
ふと思い出す。
初めてリズヴァーンと会ったときの事だ。
手を引かれ、歩いた道、リズヴァーンの手も暖かかった。
は何だか胸がいっぱいになって泣きたくなった。
それを誤魔化す様に呟く。
道の先には、目立つオレンジや緑の髪達が見え隠れしている。
「本当、みんな随分前に進んでる」
色々考えていて、随分遅れていたみたいだ。
「さあ、みんな心配してるわ」
は無言で頷くと、朔の後について歩き出した。
