時を渡る訪問者11














怖い、どうしたら……どうしたらいいの?




何が起こったのか、にはまったく分からなかった。
白い光がいっそう強くなる。


今にも襲い掛かって来そうだった怨霊は、まるで怯えた様に
の周りから遠ざかって行く。



今だ、今ならリズヴァーンが逃げ切れる。
は大きく息を吸い込むと、いっきに叫んだ。

「リズっ!きっと大丈夫だよリズ、私は平気、逃げて!」



固まった筋肉を無理やり動かし、歪な笑顔とか浮かばない。

それでも、何とか伝えたい。
もしかして、自分が居ることでリズが助からなかったら?
は心の中で渦巻いていた不安を全部出すように口に乗せた。



「このあと女の人が……龍神の神子が……きっと貴方を守
ってくれる。それまで逃げて!」

光で霞む目の先に、顔を歪めた辛そうな顔が見える。


「そうだ、神子を守るのも良いけれど……自分の事も大事にしてね?」


苦笑を浮かべて、リズヴァーンを見つめた。



「……っ!」

はっとした様に、の元へ駆け出そうとリズヴァーンが足を踏み出す。

「ダメッ!逃げて」


は慌てて叫んだ。


もう強すぎる光でもう前が見えない。
届かないのが分かっていたけれど、はそっと手を伸ばした。

「リズ、私リズが大好きだよ……」

暢気な事に、笑った顔が見たいなんて、の心を過ぎっていく。

また何時会えるのかな?
それとも直ぐに?
このまま会えないのかな?


でも……リズが助かるなら……幸せになるなら、ちょっと
ぐらいなら我慢できるかな。

自分の考えに、小さな笑みが浮かぶ。


リズヴァーンは固まった様に其処に立ち止まる。



っ……」



の姿は一層強まった光の後、跡形も無く消え去っていた。






+++++







は、ゆらゆら揺れる波の中に浮かんでいた。


『私は隙を作る。お前達は逃げなさい……』



聞き覚えのある落ち着いた声に、は目をそっと開けてみる。

白い空間。

一面の乳白色の中。


何故か……なんで此処に居るのか思い出せない。









『先生!?』



『お前達は逃げて……生き残りなさい』




この声を知っている?
はじっと耳を澄ませる。


聞こえなくなった声。
空耳だったのだろうか?



暫く、水の流れるような音しか聞こえず、ますます空耳に
思えてきた。
突如早くなる流れに、もがく様に浮き上がる。



流れる――。









再び落ち着く波。
訳も分からないまま、流れに身を任せる。

この流れは、ゆらゆらと暖かい。


このままでいいの?

このままがいいの?

ぼやける意識。



でも……何か忘れて居る様な気がして、先ほどの声を耳で
必死に探してみた。


「お願い……もう一度聞きたいの」


口にして、あの声に対しての思い入れに気づかされる。

祈るように、再び目を閉じた瞬間だった。





『なっなんだ!?』

取り乱した男の声。

『リズヴァーンだ、ここで源氏を全滅させるわけにはいか無い』

その後に聞こえたのは……。


「……っ!?」

リズヴァーンだっ!

その声を聞いたと同時、はもがきながら流れに逆らった。







「リズっ」





もう一度貴方の笑顔が見たいよ。





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