時を渡る訪問者12
飛び出した瞬間、鋭い声がに向かって投げつけられた。
「リズ、リズは何処!?」
でも、そんな声が耳に入らない程は混乱していた。
叫び声に近い声で目の前の少女につめよって行く。
それに驚いた様に、少女が後退すると、遮る格好で緑の髪の
少年が前へと進み出てくる。
「先輩下がって下さい」
不審者を見るようなその目はを一瞬怯ませたが、今は
そんな事気にならなかった。
でも、後ろから誰かに捕まえられ、後ろへて引っ張られ、
その少女のもとから退き離されてしまう。
怨霊に追われ、不思議な空間では波に逆らい。
もう、にはあらがう気力も体力も無いにひとしかった。
「お願い・・・リズは、リズは何処にいるの?」
後ろから掴んでいる相手になかば寄りかかる様にして崩れると、
懇願するように少女を見上げた。
ゆっくり手を伸ばした。
その瞬間。
現代から持って来た携帯電話が、少女と少年の前へ転がっていった。
それを見た瞬間。
少女が目をみひらいた。
「そっそれは!」
少年の方を見れば、その顔は拍子抜けした様な表情で、いままでの
ピリピリとした雰囲気が嘘みたいだった。
「あなたも現代から来たの!?」
それでも、今のには唯一つの事しか頭に無く、ズルズル
と地面に座り込むように崩れ落ちる。
「お願い……リズはどうなったの?」
かすれ声で呟くと、はゆっくりと暗い意識の中に
沈み込んでいった。
+++++
薪のはぜる様な、微かな音と、沢山の人が居る雰囲気が、
覚醒した意識に入り込んで来る。
ゆっくりと目を開けて確認すると、金髪のウェーブがかった
髪の青年が目に入った。
にこやかに笑っているが、の心には不安が渦巻いていた。
「リズは……ここは、ここは……何処なんですか?」
自身のまのびした声に驚いた。
うまく口が回らない。
「ここは有馬の陣ですよ」
『有馬の陣』
その言葉にはあまりピンとしないが、再び尋ねる気力も無く、
は黙ってその人を見上げた。
起き上がりたいが、あいにく腕すらまともに上がらない。
失礼だとは思うが、そのままの体制で目の前の男の次に
発する言葉を待つ。
「あなたは何者です?」
何者か。
一瞬どう答えていいかわからなかった。
現代から来た。
鬼の集落に居候中。
リズを探している。
今の状況と自身の事。
色々有りすぎてまとまらない。
「……私、現代から来たんです」
何者か。一番単純で、わかりやすい物を口にして、は口を閉じる。
やはり考えがまとまらない。
「現代から?」
「はい」
首を傾げている相手に、説明も無くそれだけ答えた。
瞼を下ろそうと、眠気がを襲っていたのだ。
今はそれに抵抗するので手一杯だ。
精神的にも、体力的にも、未だに回復などしていないのだから。
そんな風になるのも仕方がない。
流石に説明不足だったか、目の前の男は苦笑して……。
「そうですか……仔細を聞いても?」
遠慮がちにそう口を開いた。
の様子から、今の体調を読み取ったのかもしれない。
「……ここに来たのは突然です。この世界に飛ばされ……
親切な人にお世話になって、今はその人とはぐれてしまって……」
「誰か聞いても?」
「……」
何故かそれを口にするのが戸惑われる。
聞いたら決定的な答えが返ってくるような、そんな悪い予感が心臓を
バクバク言わせた。
「リズヴァーンです。その……リズの家にお世話になっていて、私……
リズを……リズを探さなくちゃ」
近くで息を呑む声が聞こえた。
視界を巡らせると、先ほどの少女がこっちを見つめていた。
闇に溶け込みそうな、綺麗な長い髪が、風に揺れてフワリ
と顔の周りを縁取ってる。
やっぱり、はこの少女に見覚えがある。
そう……知っていた。
すでにピッタリと合わさってしまった瞼の裏に浮かぶ絵。
既に答えは知っている気がした。
眠る寸前、その名前が、いくつかのストーリーが頭を過ぎっていった。
『春日 望』白龍の神子。
リズヴァーンの思い人となるその人だ。
は切なくなったが、やがてそれも眠りの中へと沈んでいった。
